ついこの前まで、冷たい雪に覆われていた、ここ南中山のキャンパスにも、ようやくまぶしい春の光が降り注ぐ季節になりました。
皆さん、ご卒業おめでとうございます。保護者の皆さまにも、心よりお祝いを申し上げます。

皆さんは今日、短期大学を卒業し、新たなステージに向かって、一歩を踏みだすことになります。振り返ってみれば、皆さんの大学生活は、「新型コロナ感染症」に振り回された二年間でした。様々な制限、不便や不自由を感じることも少なくなかったはずです。世界中すべての人々が直面した困難とはいえ、心おきなく学生生活を謳歌するといった二年間ではなかったことは残念ですが、そんな難しい時代にも関わらず、今日こうして「短期大学士」という学位、国際的に認められている学位を受けて、立派に卒業を迎えられることを、心より祝福したいと思います。

皆さんは、この二年間、さまざまな知識や技術を学んでこられました。しかし、現実の社会では、自分の知識や技術の不足を痛感し、自分自身の身の置き所について、迷いが生じてしまう場面があるかも知れません。
ドイツの哲学者、社会学者ゲオルク・ジンメルは、その著書の中で「自分自身に適せず、踏み迷って、休むことを知らない存在、それが人間である」と述べました。様々な疑問や課題が目の前に現れて、途方にくれてしまうこと、「踏み迷って、休むことを知らない存在」それこそが「人間」なのだと、ジンメルは語りかけます。
皆さんはこれから人と関わる仕事に就くことになります。(小さな子どもたちに関わる場合は言うまでもありませんが、)たとえ、仕事として目の前に現れ、日々対応するのが、数字や文書だとしても、その数字や文書の向こうには必ず「人」がいるのです。「人の幸せや困りごとのすぐ近くにいられるように」と、聖和短大での学びを表現してくれた学生さんがいると聞きました。社会に出た皆さんは、「人の幸せや困りごと」に寄りそう立場に置かれることになりますし、そうあってほしいと思いますが、しかし、そうはいっても、あなた自身が迷ってしまうこともたくさんあるでしょう。答えは、書物やインターネットの中に見つかるとは限りません。自分ひとりだけで悩み、孤立するのではなく、周囲の人たちに助言を求める謙虚さ、積極性も必要です。有効な情報を選り分け、さらなる知識、技術を身につける必要もあるでしょう。「踏み迷って、休むことを知らない存在」、それこそが人間であるならば、「学ぶこと」は二年間で終わりではなく、むしろここからがスタートです。これまでの学びは、自分の基礎となって役立っていることを実感する日が来ると確信します。
ここで出会った人たち、ずっとマスク越しのお付き合いでしたが、短大で出会った人たちは一生の宝物です。これからも皆さんの力になってくれるに違いありません。
聖和学園短期大学は、卒業したのちも、変わらず皆さんを応援します。建学の精神である「慈悲、和、智慧」は、卒業したら消えてしまうものではありません。これからも皆さんを緩やかに包み、人間的成長を支えてくれるでしょう。
明日からは、皆さんと会う機会はもうあまりないかも知れません。どうか体だけは大切に、実際に会う機会はなくとも、「誰々さんは、こんなところで、こんなふうに、元気で頑張っています」という、風の便りを聞くのを楽しみにしています。

あらためてご卒業おめでとう。どうぞ、聖和学園短期大学卒業を誇りに、自信を持って歩み始めてください。
以上、皆さんへの餞のことばといたします。

令和五年三月十八日
聖和学園短期大学 学長 吉川 和夫